近年、企業における障害者雇用に注意が向けられつつあるが、これは日本に
おける障害者雇用は、『障害者の雇用の促進等に関する法律』により、事業主が
一定数の障害者を雇用するように定められているため。

2013年4月から定められている障害者雇用率は、民間企業が2.0%、国及び地方
公共団体、並びに特殊法人が2.3%、都道府県等の教育委員会が2.2%となっている。
民間企業の2.0%は、従業員50人に対して1名の障害者を雇用することが必要と
なっている。

現在、全国で雇用されている障害者は約45万人で実雇用率は1.88%(2015年
障害者雇用状況の集計結果)となっており、障害者は前年よりも2万人ほど増加、
雇用率では0.06ポイント増加している。 障害者の社会参加が進むなか、雇用
される障害者は、年々着実に増えており、雇用が拡大していることが伺える。

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2016年4月1日に施行された『障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律』
(障害者差別解消法)が施行された。 この法律は、障害を理由とする差別を
解消し、障害の有無によって分け隔てられることのない共生社会を実現しよう
とするものである。 この施行により、行政機関や民間企業等に対して
『障害を理由とする差別』が禁止されるとともに、『必要かつ合理的な配慮』
(合理的配慮)の提供が求められることになる。
 
障害者差別解消法の制定と同時に『障害者の雇用の促進等に関する法律』
(障害者雇用促進法)も改正され、こちらも2016年4月1日から施行された。
この改正法では、『事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者に対して、
障害者でない者と均等な機会を与えなければならない』とした上で、
『事業主は、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇
について、労働者が障害者であることを理由として、障害者でない者と不当な
差別的取扱いをしてはならない』と定められている。
 
また、『事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者と障害者でない者との
均等な機会の確保の支障となっている事業を改善するため、労働者の募集及び
採用に当たり障害者からの申出により当該障害者の特性に配慮した必要な措置を
講じなければならない。 ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすことと
なるときは、この限りでない。』とされている。
 
雇用場面での『障害者であることを理由とした差別』としては、厚生労働省の
資料の中で次のような具体例があげられている。
 
・障害があることや車椅子を利用している等を理由として採用を拒否すること
・障害者であることを理由として賃金を引き下げること
・障害者であることを理由として研修や実習を受けさせないこと 等
 
また、『合理的配慮』の具体例としては、次のようなものがあげられている。
 
・採用試験の問題用紙を点訳・音訳すること、回答時間を延長すること
・車椅子利用者に合わせて、机や作業台の高さを調整すること
・手話通訳者・要約筆記者を配置・派遣すること
・通勤時のラッシュを避けるため勤務時間を変更すること 等
 
障害種別ごとの具体例も示されており、肢体不自由のある人への合理的配慮
としては、『作業が可能となるように、本人が業務上用いる道具等を工夫する』
などがあり、『片手だけで封筒に書類を入れられるような道具を作成している』
『本人の使いやすいキーボードとマウスを提供している』といった実施例も
紹介されている。
 
知的障害のある人への合理的配慮としては、『本人の習熟度に応じて業務量を
徐々に増やして行く』『図等を活用した業務マニュアルを作成する』『業務指示は
内容を明確にし、ひとつずつ行う等作業手順をわかりやすく示す』といった例が
あげられている。
 
このように、障害者であることを理由とした差別を禁止すること、および合理的
配慮を提供することによって、障害のある人もない人も雇用の場に参加する機会を
等しく得られるようにしよう、というのが改正障害者雇用促進法の目指す
ところである。
 
何が『差別』であり、何が『差別でない』のか?
厚生労働省による『障害者差別禁止指針』や『解釈通知』では、『障害者である
ことを理由として』とは、『労働能力等を適正に評価することなく、単に
『障害者だから』ということを理由とする』という意味であり、『不当な差別的
取扱い』とは、障害者であることを理由として以下があげられている。
 
・障害者を排除すること
・障害者に対して不利な条件を付すこと
・障害者よりも障害者でない者を優先すること

一方、『障害者であることを理由とした不当な差別的取扱い』にあたらないこと
としては以下があげられている。
 
・積極的差別是正措置として障害者を有利に取り扱うこと
・合理的配慮の提供を前提としたうえで、労働能力等を適正に評価した結果
 として異なる取扱いをすること
・合理的配慮に係る措置を講じた結果として、異なる取扱いとなること
  
またここでは、『労働者の募集・採用に関しては、『応募者のもつ能力・適正が
求人職種の職務を遂行できるか否かを基準とする』という公正な採用選考の
考え方にもとづき、出来る限り障害種別に関わりなく応募の機会を与えることが
重要である』との見方が示され、『合理的配慮を提供したうえで障害者である
労働者の労働能力等を適正に評価した結果として、労働能力等が優れている者を
優先すること』も『差別』にあたらないとされている。
  
障害者差別禁止の論理と残される課題
 これらをふまえると、改正障害者雇用促進法の差別禁止をめぐる規定は、
(1)労働能力等にもとづく処遇は正当である(不当ではない)
(2)合理的配慮によって障害者が能力を発揮できる
(3)差別禁止と合理的配慮によって適正な能力評価が実現する
 という3つの論理によって根拠づけられていると考えることができる。
 
障害に応じた配慮によって障害者が労働能力等を発揮できるようにし、その上で
その仕事に必要な労働能力等をしっかりと評価し、障害者であることを基準とせず、
労働能力等によって処遇を決めるのであれば、そこに『差別』はないという
ことになる。
 
その結果として、障害のある人が労働能力等が低いと判断された場合には、
不採用となったり給料が低くなったりしても、それは『差別』ではないという
ことである。

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【障害者雇用促進法ポイント1】障害者の範囲が広がった
第1条では『身体障害者または知的障害者の雇用義務等に基づく』だったものが
改正後は一括して『障害者』となっている。 これは、身体・知的障害者に注目
されていた改正前から『精神障害者』も追加されたため。 尚、精神障害者には、
ADHDを代表とする発達障害やてんかんも含まれている。

また、この法律について、『障害者とそうでない者との均等な機会および待遇の
確保、並びに障害者がその有する能力を有効に発揮できるようにするための措置』
という前置きがされているが、このことから、国はより障害者の差別をなくす
ことや、積極的に雇用することに重点を置いていることが分かる。

【障害者雇用促進法ポイント2】差別の禁止
差別については、改正前は特筆されていなかったが、第34条〜第36条が新しく
書き加えられた。 この法律では『雇用の分野における障害を理由とする差別的
取扱いを禁止する』とあるが、車いすや人工呼吸器を使っているという理由により
不採用にしたり、解雇したりするは差別となっている。

【障害者雇用促進法ポイント3】法定雇用率が上がる
国は事業主に対して、障害者雇用率に合った身体障害者・知的障害者の雇用を
義務付けている。 民間企業の法定雇用率は2.0%だが、この障害者雇用率は
2018年3月31日までとなっている。 これは法定雇用率の障害者にも精神障害者が
追加されるため、法定雇用率も上げられた。 但し、雇用率を上げて企業に負荷が
掛からないよう、2018年から5年間だけは法定雇用率を下回っても良い。

 【障害者雇用納付金制度】
障害者雇用は、事業主が相互に果たしていく社会連帯責任の理念に立ち、
事業主間の障害者雇用に伴う経済的負担の調整を図っており、そのため、
障害者雇用率に達していない分を、障害者雇用納付金としてお金で納める
ことになっている。 障害者雇用未達成1名につき月50,000円を支払います。
(101名以上200名未満の企業は、平成27年4月1日から平成32年3月31日までは
移行期になるため、納付金の額が1人当たり月額5万円から4万円に減額される)

集められた納付金は、企業が身体障害者、知的障害者又は精神障害者を雇用
する場合の作業設備や職場環境を改善するための助成金や、特別の雇用管理や
能力開発等を行うなどの経済的な負担を補填するため、雇用を多くしている
企業への調整金などに活用される。

障害者雇用側のメリットとデメリット

■メリット
・休みや早退に寛容
・責任感のある仕事はやらされない
・多少のミスは許される
・人事部の人が気にかけてくれる
・面接のとき職歴の空白は『治療に専念していました』で通じる

■デメリット
・賃金が安い
・雇用形態が安定していない(ほとんどが契約社員)
・昇給がないところが多い
・人並みに働けていないことに劣等感が湧く
・やりがいがない

このような法律が制定された背後には、障害者への差別が存在していることが
明らかなのだが、法律で規制をしたところで、人間の思考が急に変わる訳でも
なく、現状、職場でも健常者とあからさまに区別されたり、暴言を吐かれる
ことも多いと言う。 また、その雇用体系も契約社員ばかりで、給与は東京都内
でも平均で16万円程度だったりと、極端に安いことが多いため、障害を隠して
働いている人も多いのが実情。

【お勧めの一冊】


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