安保法制ばかりが注目を集めている今国会だが、他にも重要法案の審議が
続いており、そのひとつとして、「取調べ可視化」などを内容とする
「刑事訴訟法等改正案」を挙げることが出来るが、同法案は、2015年8月7日に
衆議院を通過したものの、「ヘイトスピーチ法案」の審議を先に扱うように求める
民主党などの主張と折り合わず、今国会での成立は見送られた。

取調べ可視化」は、裁判員制度導入を契機に、検察庁、警察それぞれで
(2006年・2008年から)部分的な試行が始まっていたが、こうした動きに
合わせて、可視化の範囲が拡大され、ここでの検討結果に基づいて提出されたのが、
今回の刑事訴訟法等改正案だった。

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現在、被疑者に対する取調べは、全て、密室で行われており、日本の刑事司法制度に
おいては、捜査段階における被疑者の取調べは、弁護士の立会いを排除し、外部
からの連絡を遮断された、いわゆる「密室」において行われている。 このため、
捜査官が供述者を威圧したり、利益誘導したりといった違法・不当な取調べが
行われることがある。 その結果、供述者が意に反する供述を強いられたり、
供述と食い違う調書が作成されたり、その精神や健康を害されるといったことが
少なくない。

この「取調べ可視化」は、イギリスやアメリカのかなりの州で導入されている他、
オーストラリア、韓国、香港、台湾などでも既に導入されており、取調べの録画や
録音を義務付ける改革が既に行われている。 また、国連の国際人権(自由権)規約
委員会は、日本における被疑者取調べ制度の問題点を特に指摘して、被疑者への
取調べが厳格に監視され、電気的手段により記録されるよう勧告している。



かれこれ、20年ほど裁判所、検察庁、警察署などで司法通訳をやっているが、被疑者
ばかりではなく、司法通訳者に対する扱いもかなり酷く、最近はなくなったものの、
昔は、現場検証をする際に、周りの警察官は、全員防弾チョッキを着ているのに、
通訳者だけは、何も装備なしとかも普通であった。 司法通訳者の場合、常時
被疑者のすぐ隣に居合わせなければならず、常に危険と隣り合わせの割には、
待遇が決して良くない。

一昔前までは、取調室でタバコを吸いながらの取り調べも普通であったため、刑事、
被疑者共にタバコを狭い空間で吸われると、煙の中で1日8時間以上もぶっ続けで
喋り通さなければならなかったため、非常に喉に負担が掛ったのだが、今では、
その取り調べも、色々と禁止事項が増えたため、取調室でタバコを吸うのも、酷い
ところだと、水を出すことすら禁止となっている。 よって、刑事が被疑者に
カツ丼をおごるなどという夢物語は、ドラマの中だけの話と化している。



警察の場合は、前述の通り、録画も録音もされていないため、通訳者としても、まだ
気楽なのだが、検察庁と裁判所での取り調べの場合は、調べ室にマイクが用意して
あり、その前で通訳、または、担当秘書が全ての内容を手打ちで記録しているため、
通訳者は、基本的に間違いは許されない。

但し、司法通訳の呼び出しは、当日、または、前日に急に呼び出されるため、
まともな打ち合わせすらない状況の元、ほぼ即興で、法律用語が飛び交う中、
非常に責任のある通訳業務をこなさなければならないため、二重三重に責任重大な
職務となっている。

司法通訳者に対する扱いは、お世辞にも良いとは言えないため、最近では、約9割
程度が、外国人妻たちによる司法通訳となっているが、その通訳能力には、かなり
バラつきがあるため、酷いレベルの通訳者に当たってしまうと、何を言っている
のかすら良く分からない状況となっている。

尚、司法通訳は、完全時給制となっているため、双方向同時で通訳をしてしまうと、
稼働時間が短くなるため、能力の高い通訳者ほど稼げないという状況になっており、
逆に、能力の足りない通訳者にとっては、かなり時間稼ぎができるため、非常に
美味しいアルバイトとなっている。



司法通訳の料金体系は、各言語の難易度などは一切加味されず、何故か、文法的には
非常に簡単なタガログ語他のアジア言語が高待遇となっており、非常に難易度の高い
ロシア語他のヨーロッパ言語は、英語とほぼ同じ扱いとなっている。 アジア言語の
場合は、地理的に日本からも近いため、当然、呼び出される回数も多いのだが、
ヨーロッパ言語の場合は、稀にしか呼び出しが来ない挙句の果てに、年に数回程度の
稼働となっているため、司法通訳だけで食べて行くのは、実質不可能となっている。

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