ヨーロッパで話されているフランス語の発音や語彙に慣れていると、ケベックで
耳にするフランス語には少し違和感を感じるかも知れない。 また、もしかすると、
その逆もあるかも知れない。 もちろん、どの国や地域で話されようと、
フランス語はフランス語なのだが、ケベックの場合、イギリス領のおよそ
百数十年間、様々なレベルでフランスとの公的交流を絶っていたという事実がある。
そのため、言語としての独自性が強いのである。

ケベックのフランス語の特徴は、主に発音と語彙に端的に現れている。 発音の
一例を挙げると、フランス語の母音I(イ)とU(ユ)の前にTやDが来る、TI(ティ)
TU(テュ)DI(ディ)DU(デュ)と発音されるが、ケベックでは、多くの場合、
TIはツィ、TUはツュ、DIはズィ、DUはズュと発音される。

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さて、ケベックで話されているフランス語は、次の3つのレベルに分類される。

①標準的フランス語
これは、表現や選択がヨーロッパの、主としてフランスで話されている
フランス語に近い。 テレビやラジオのアナウンサーやレポータが話すフランス語が
これにあたる。 また、知識人もこのフランス語を話すことが多い。

②ジュアル(Joual)
ジュアルを厳密つに定義することは、大変困難である。 一般的に、ジュアル
とは、後述の大衆フランス語に含まれるものである。 ジュアルという言葉は、
フランス語で馬を表すシュヴァール(Cheval)という単語をケベックの人が
発音すると、ジュアルと聞こえるというところから来ている。 この由来からも
分かるように、ジュアルは話し言葉を表すことが多く、同時に少し自虐的な
ニュアンスさえ含むのである。 ジュアルは、都市圏の若者や労働者の間で多く
話されるスラングの一種であり、意味不明なフランス語の使用や音節の省略等が
その特徴としてあげられる。

そして、ジュアルは、言語のレベルを超えてイデオロギー的な側面を持ち、むしろ、
この点の方が社会に大きな影響を与えて来たと言える。 1960年代に入ると、
ケベックの青年文学者ブループ『パルティ・プリ』と呼ばれる文学集団を作る。
イギリスの支配下に置かれて以降、ケベクックは政治、経済等多くの領域で
イギリス系他州に常に遅れをとり、同州内にあっては、数的にマジョリティとは
言え、現実的には、支配的なイギリス系との間で社会格差が生じ、苦悩していた。

こうして、進むべき未来をまだ描くことが出来ずにいるケベックの閉塞的な状況を、
彼らはケベックのフランス語が伝統的に持っている牧歌的て、美しい表現や語彙を
全て排除し、ジュアルを多用して行った。 それはいわば、『言語の劣化』だった。

③大衆フランス語
前述の標準フランス語が規範文法を重んじているのに対して、ケベックの人々が
日常生活の中で普通に話しているフランス語が大衆フランス語である。 大衆
フランス語は、ケベックの社会の現実に即して、言語のあらゆる可能性を排除する
ことなく用いられる。 そのため、ケベックに固有なフランス語表現等がこの中に
入って来る。 また、極めて特徴的なことは、英語からの直接的な『借用』や、
『読み換え』等が大変多く見られるという点である。 この事実は、ケベックが
置かれている地理的、社会的状況を踏まえれば、むしろ当然なことかも知れない。



【今後のケベック・フランス語】
フランス語に関する認識は、変わりつつある。 以前は、フランスで話されている
フランス語が唯一基準となるフランス語であるとする考え方が主流であった。
しかし、今や、フランス語圏の文化的、社会的多様性がフランス語をより一層
豊かで、強固なものにしているという捉え方に移行しつつある。 つまり、国際
フランス語という考え方である。 この国際フランス語という枠組みの中で重要な
役割を果たしているのが、まさにケベックである。  ケベック州政府は、ケベック
特有のフランス語をラルース等のフランス語辞書の語彙に加えるようにフランス語
圏の国際委員会に働き掛け、それと同時に、新語の開発でもフランス語圏の主導的
役割を果たしている。

例えば、ソフトウェアを現すLogicielという語彙がある。 これは、現在は、
フランスを始め、フランス語圏では当たり前のように用いられているIT用語である。
この用語は、実は、ケベックで作られたものである。 ケベックでは、
フランス語は、単なるコミュニケーションツールを超えるものと深く理解
されている。 ケベックは、これからも独自のフランス語の歴史を作り上げ、
そして、世界のフランス語圏の中でますます
重要な地位を占めて行くと
思われる。

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